目次


1. ローカルLLMとは?

ローカル LLM(Large Language Model)は、クラウドに依存せずPC やオンプレ環境で動かせる大規模言語モデルです。
近年は「情報漏洩を防ぎたい」「オフラインでも使いたい」というニーズの高まりから、企業・個人問わず注目を集めています。

2025 年 9 月現在、主要なローカル LLM としてgpt-oss・DeepSeek・Qwen・phi-4・Mistral・LLaMA3.1・Gemma 3が存在し、それぞれ特徴や用途が異なります。


2. 主要7モデルの概要

  • gpt-oss:OpenAI が OSS 化した GPT。信頼性とエコシステムの広さが強み。
  • DeepSeek:推論効率に優れた中国発モデル。コスト性能比が高い。
  • Qwen:Alibaba 系。多言語対応に強く、アジア圏で利用増。
  • phi-4:Microsoft 発。小規模で高精度、教育・推論用途に最適。
  • Mistral:軽量・高速で実用性重視。企業導入が進む。
  • LLaMA3.1:Meta 製。研究用途から実務まで幅広く利用。
  • Gemma 3:Google 製。Gemma 系の軽量設計でモバイル/組込に強い。

3. 詳細比較テーブル

モデル提供元Thinking(推論強化)ツール利用(Function/Tool Use)主な用途最低限スペック目安推奨スペック特徴
gpt-ossOpenAI○(高精度)○(MCP 連携や API 統合が容易)企業内ナレッジ検索、カスタム AICPU 8 コア・RAM16GB・GPU 不要GPU 12GB VRAM 以上・RAM32GBOSS 化で OpenAI 品質の安心感、周辺ツールが豊富
DeepSeek中国系○(効率重視)△(限定的)コスト効率型 QA、バッチ生成CPU 8 コア・RAM16GBGPU 16GB 以上・RAM32GB省リソースで高速、低コスト運用に強み
QwenAlibaba○(多言語強い)○(翻訳/検索ツールと好相性)多言語チャット、RAGRAM32GB・GPU 16GBGPU 24GB 以上・RAM64GB日本語/中国語などアジア言語に強い
phi-4Microsoft○(小型でも推論良)△(用途限定)教育・補助推論・組込RAM16GB・GPU 不要GPU 8〜12GB・RAM32GB超軽量で動かしやすい、学習教材に好適
MistralMistral 社○(短文思考に強い)○(LangChain 等と親和)アプリ埋め込み、軽量 RAGRAM16GB・GPU 8GBGPU 16GB 以上・RAM32GB軽量・高速で実務導入実績が多い
LLaMA3.1Meta○(研究ベンチ強い)△(OSS エコシステム依存)研究・高度解析RAM32GB・GPU 24GBGPU 48GB 以上・RAM64GB学術コミュニティが大きく拡張性高い
Gemma 3Google○(効率重視)○(エッジ/モバイル連携)モバイル/IoT、業務アシスタントRAM16GB・GPU 8GBGPU 16GB 以上・RAM32GB軽量で端末実装に強い、安定品質

スペックは目安です。量子化(例:Q4_K_M、Q8)や推論エンジン(Ollama、vLLM、LM Studio 等)によって必要 VRAM/メモリは前後します。


4. 各モデルの特徴まとめ(強み・注意点・適性)

gpt-oss

gpt-oss
  • 強み:OpenAI 系の自然言語品質、ドキュメントやサンプルが豊富。MCP/ツール連携の設計が進んでおり運用に乗せやすい
  • 注意点:モデルサイズ次第で VRAM 要件が上がる。ガバナンス設計(監査ログ/プロンプト管理)は別途必要。
  • 適性企業のナレッジ活用/RAG、社内アシスタント、カスタマーサポート自動化の中核に。

DeepSeek

deepseek
  • 強み推論効率と価格性能比が高い。量子化の選択肢が多くロースペックでも動かしやすい
  • 注意点:英語以外の安定度は構成次第。ツール呼び出しはフレームワーク依存。
  • 適性大量バッチ生成、低予算での QA/RAG の PoC、オフライン問合せ端末。

Qwen

Qwen
  • 強み多言語・コード生成に強い。検索拡張や翻訳ツールと組み合わせると効果大。
  • 注意点:モデルによって挙動差があるため版の選定が重要。
  • 適性グローバル拠点の FAQ/RAG、越境 EC サポート、翻訳+要約の一体運用。

phi-4

phi4
  • 強み小型でも高精度、教育・啓発系や補助推論に最適。低電力端末で稼働しやすい。
  • 注意点:長文・長コンテキストは過大期待 NG。
  • 適性学習支援、社内チュートリアル、軽量ガイド Bot、エッジ端末での簡易アシスト。

Mistral

mistral
  • 強み軽量・高速、商用導入での安定感。RAG/ツール呼び出しのエコシステムが成熟。
  • 注意点:最大性能はハイエンドには譲る。
  • 適性アプリ内ヘルプ、現場用 RAG、検索アシストなど応答速度重視の領域。

LLaMA3.1

llama
  • 強み研究コミュニティが巨大、エージェント/推論強化の論文・実装が豊富。
  • 注意点:商用時はライセンス/重みの扱いを要確認。VRAM 要件が上がりやすい。
  • 適性研究・高度解析、アルゴリズム検証、社内 ML 基盤の中核。

Gemma 3

gemma3
  • 強み端末向け最適化が進んでおり、モバイル/IoTに好相性。
  • 注意点:最大性能は上位モデルに劣るケース。
  • 適性現場端末のオフライン要約、音声 UI の一次応答、工場/小売の端末組込

5. 実践ユースケース

5-1. 社内ナレッジ検索(RAG)— 情シス/営業 FAQ の即答化

  • おすすめモデル:gpt-oss / Mistral / Qwen
  • 要件:社内 Docs(PDF/Confluence/Notion)を Embed→ ベクトル DB(FAISS/pgvector)→RAG パイプライン。
  • 導入ステップ
    1. 文書前処理(分割・重複除去・機密マスキング)
    2. 埋め込み作成&格納
    3. 検索 → コンテキスト付与 → 回答生成
    4. 参照ソースの根拠提示(出典 URL/ページ)
  • 目安スペック:GPU 8〜12GB / RAM32GB(7B〜8B 量子化で快適)
  • KPI:一次解決率、検索 → 回答までの中央値(P50)応答時間、根拠クリック率。

5-2. コンタクトセンター一次受け(音声/テキスト)

  • おすすめモデル:gpt-oss / Mistral
  • 要件:電話/チャット受付、顧客認証 → 要件分類 → 手続きフロー分岐。ツール呼び出しで CRM/在庫/決済に接続。
  • 導入ステップ
    1. 会話ガイドライン(禁止表現・転送条件)をプロンプトに明示
    2. MCP/Function Calling で顧客検索・チケット発行
    3. 人へエスカレーション時の会話引き継ぎメモ自動生成
  • 目安スペック:GPU 12〜24GB / RAM32〜64GB(同時通話数に応じて横スケール)
  • KPI:平均処理時間(AHT)、一次解決率、転送率、顧客満足度(CSAT)。

5-3. 多言語 EC サポート/越境カスタマーケア

  • おすすめモデル:Qwen / gpt-oss
  • 要件:商品 Q&A、返品・配送の案内、リアルタイム翻訳+要約、注文 API 連携。
  • 導入ステップ
    1. 商品 FAQ と受注データの RAG 統合
    2. 翻訳 → 要約 → 提案文生成のチェーン
    3. 顧客の感情に合わせた口調調整(丁寧/カジュアル)
  • 目安スペック:GPU 16〜24GB / RAM32GB(英中日など多言語でも安定)
  • KPI:応答時間、一次解決率、カゴ落ち率、返品率。

5-4. 教育/研修用パーソナルチューター

  • おすすめモデル:phi-4 / Gemma 3
  • 要件:学習者の回答を解析し、誤りの根拠次の一問を提示。テキスト読み上げや簡易音声も。
  • 導入ステップ
    1. カリキュラムをメタデータ化(難易度/分野/到達度)
    2. 学習履歴をコンテキスト化して個別最適化
    3. 誤答に合わせて段階ヒントを生成
  • 目安スペック:GPU 不要〜8GB / RAM16〜32GB(低電力 PC・タブレット OK)
  • KPI:到達度、継続率、平均学習時間、定着度(クイズ正答率)。

5-5. 現場(製造/保守)のオフライン支援

  • おすすめモデル:Gemma 3 / Mistral
  • 要件:マニュアルから作業手順の要約、エラーコード説明、音声/画像の軽量解析
  • 導入ステップ
    1. 端末内にモデルと手順データを格納(オフライン前提)
    2. 音声 UI で手順検索 →目次 → 詳細の段階出し
    3. 作業ログの要約 → レポート自動生成
  • 目安スペック:GPU 8GB / RAM16〜32GB(産業タブレット/小型 PC)
  • KPI:作業時間短縮率、誤作業率、問い合わせ数。

5-6. 研究・アルゴリズム検証(LLM 評価/実験)

  • おすすめモデル:LLaMA3.1 / gpt-oss
  • 要件長文コンテキスト、思考連鎖(CoT)評価、プロンプト/量子化/推論最適化の比較実験。
  • 導入ステップ
    1. 評価データセット準備(日本語含む)
    2. 推論エンジン(vLLM/Flash-Attn 等)を切替 AB テスト
    3. 速度・品質・コストをダッシュボード可視化
  • 目安スペック:GPU 24〜48GB / RAM64GB 以上(30B 級で快適)
  • KPI:トークン/秒、Pass@k、運用コスト/1000 問。

6. 導入時の注意点

  • GPU 要件の見極め:7B 級は量子化で CPU/小 GPU でも可。13B 以上は専用 GPUを想定。
  • セキュリティ/ガバナンス:アクセス制御、プロンプト/会話ログの監査設計、PII マスキング。
  • エコシステム整合:RAG(ベクトル DB)、ツール呼び出し(MCP/FC)、監視(Prometheus/Grafana)との親和性を事前確認。
  • 体験 KPI:応答開始までのレイテンシ(P50/95)、根拠提示率、一次解決率を設計時から可観測化

7. まとめ

  • 主要 7 モデルは得意分野と必要スペックが明確に異なる
  • 業務要件(速度・言語・コスト・端末)から逆引きしてモデルを選ぶのが最短ルート。
  • PoC は7B〜8B 量子化 + RAGから始め、効果が出たら13B 以上に拡張が定石。

OpenBridge では、ローカル LLM 選定〜RAG/ツール連携の設計、導入・運用まで一気通貫で支援します。
ユースケースや社内データの状況を教えていただければ、最小構成の PoC プランもその場でご提案します。