目次


1. AIエージェントとは?

まずAI エージェントとは、従来のチャットボットや QA システムを一歩進めた存在です。与えられた目標や指示に対して、自律的に考え、必要に応じて外部のツールや情報源を活用しながら問題解決する AIのことを指します。例えば、スケジュール調整の依頼に対しカレンダーアプリを参照したり、最新ニュースを取得するためにウェブ検索を実行したり、コードを書く際に開発環境と連携する、といった具合にAI 自身が能動的に行動するイメージです。

従来の AI はユーザーからの質問に答える受動的なものが中心でしたが、AI エージェントは自らタスクを実行する AIとして注目を集めています。これにより、複雑な手順を要する作業を人の手を借りず自動化したり、AI に調査・分析を任せて結果を得ることが可能になります。


2. ローカルAIモデルが注目される理由

そんな高度な AI エージェントを使いこなす上で鍵となるのがローカル AI モデルです。ローカル AI モデルとは、自分の PC やオンプレミス環境など手元で動かせる AI モデルのこと。これが近年注目される理由には以下のポイントがあります:

  • プライバシーとセキュリティ:クラウドの AI サービスと異なり、やり取りするデータが外部サーバーに送信されません。機密情報や個人データを扱う場合でも情報漏洩のリスクを抑え、安心して AI エージェントを活用できます。
  • コスト効率:商用の大規模言語モデル API は利用料が高額になることがありますが、オープンソースのローカルモデルなら基本無料で利用可能。自前の GPU サーバーや PC があれば追加コストを抑えて高度な AI を運用できます。
  • カスタマイズ性:手元で動かすモデルだからこそ、用途に合わせてモデルの細かな調整やツール連携の自由度が高いです。独自のデータで追加学習(ファインチューニング)したり、好きな拡張機能を組み込んで、自社業務や個人のニーズに最適化した AI エージェントを構築できます。

要するにローカル AI モデルは、「自分専用の AI を思い通りに使える」点が大きな魅力です。そして昨今は、オープンソースコミュニティや企業から高性能な大規模言語モデル(LLM)の公開が相次ぎ、これらをローカルで利用できる環境が整いつつあります。


3. エージェント実行に強いローカルAIモデル5選

では具体的に、AI エージェントとして活躍できる実力を持つ最新のオープンソース AI モデルを 5 つ紹介します。それぞれローカル環境で動作し、外部ツールの呼び出しや高度な推論が可能な「エージェント適性」の高いモデルたちです。

① GPT-OSS(OpenAI 発のオープンモデル)

GPT-OSSは、あの OpenAI が公開した注目のオープンソースモデルです。高性能な 20 億(20B)パラメータ版と 120 億(120B)パラメータ版が提供されており、高度な推論力とエージェント機能を備えています。もともと ChatGPT などに代表される GPT シリーズのノウハウを活かしており、複雑な質問への対応力やコード生成など幅広い能力を発揮します。

このモデル最大の特徴は、エージェント的な拡張機能が標準搭載されている点です。具体的には関数呼び出し(Function Calling)やウェブ検索連携、Python 実行などが可能で、まさに AI エージェント向きの機能強化が図られています。また推論過程を隠さず逐次表示できる「チェイン・オブ・ソート(思考の連鎖)」機能にも対応しており、AI がどのように考えているかを追跡できるのもユニークです。

ライセンスは商用利用も可能な Apache 2.0 で、自由にカスタマイズや再配布ができます。OpenAI 製という安心感とオープンな利用条件を両立した GPT-OSS は、「手元で動く GPT」としてエージェント用途に最適なモデルの一つです。

② Qwen3(Alibaba 開発のマルチリンガル LLM)

Qwen(通義千問)は Alibaba Cloud が開発した大規模言語モデルファミリーで、最新版のQwen3シリーズは最大で 2350 億パラメータ規模にも及ぶ超巨大モデルを含みます(Mixture-of-Experts アーキテクチャによるもの)。Qwen シリーズは**中国企業発ながらオープンソース(Apache 2.0 ライセンス)**で公開されており、特に Qwen3 ではエージェント運用に有用な機能が大きく強化されました。

Qwen3 の強みは、高い推論・思考力に加えて外部ツール統合への適性が挙げられます。思考モード(チャットでの推論展開)と非思考モード(即答型)の両方で性能を発揮し、どちらのモードでも外部の API やツールを的確に呼び出すエージェント機能を備えています。実際のベンチマークでも、複雑なツール使用を伴うタスクで他のオープンモデルを凌ぐ成果を収めています。また100 以上の言語に対応するマルチリンガル能力も持ち、グローバルな問い合わせや非英語の情報収集にも強いのが特徴です。

さらに、Qwen ファミリーにはコード特化の「Qwen-coder」や画像も扱える「Qwen-VL」など派生モデルも存在し、用途に応じて使い分け可能です。総合力の高い Qwen3 は、企業レベルの複雑なエージェントにも耐えうるパワフルなモデルと言えるでしょう。

③ GLM-4.6(長文コンテキスト&推論特化モデル)

GLM-4.6は、中国発の「General Language Model」シリーズの最新バージョンです。特筆すべきはその超ロングコンテキスト対応で、なんと**最大約 20 万トークン(約 15 万語以上)**もの長大な入力文脈を一度に処理できます。これは非常に長いドキュメントや大量のデータをまたいだ推論が必要な場面でも、一度に文脈を保持したまま AI エージェントが考えを進められることを意味します。例えば複数の資料をまとめて分析したり、大規模なログデータから関連箇所を見つけ出すといった高度なタスクも、GLM-4.6 なら一人でこなせる可能性があります。

また推論力・コード処理能力が向上しており、前バージョン(GLM-4.5)比で大幅な性能アップを果たしています。注目すべきはエージェント統合への最適化で、モデル自身がツール使用や検索を駆使して回答を精緻化する能力が強化されています。実際にエージェント用フレームワーク(自律 AI 実行環境)との親和性が高く、複雑な問題解決においても安定した振る舞いを示すよう調整されています。

GLM-4.6 は学術評価でも他の最新モデル(DeepSeek や Claude シリーズなど)に匹敵する結果を残しており、「長文 × 高度推論」が求められるエージェント用途において非常に頼もしいモデルです。

④ Dolphin 3.0 (ローカル特化の汎用モデル)

Dolphin 3.0 (Llama 3.1 ベース)は、コミュニティ主導で開発された汎用ローカル LLMです。ChatGPT や Claude のような高性能チャット AI を目指しつつ、企業や個人が自分の手元で安心して使えることにフォーカスして設計されています。モデルサイズは約 80 億パラメータと比較的軽量で、PC やワークステーション級の GPU でも扱いやすいのが特徴です。

Dolphin 3.0 のユニークな点は、ユーザー側で制御可能な設計思想です。オンライン AI サービスでは提供元が勝手にモデルをアップデートしたり、一律のコンテンツ規制が掛けられたりしますが、Dolphin はシステムプロンプト(AI の前提指示)や応答スタイルを利用者が自由に決められるようになっています。言い換えれば、自社のポリシーに合わせて AI の振る舞いを調整可能であり、データもローカルに留まるためセキュリティ面でも安心です。

もちろんエージェント機能も備えており、関数呼び出しなどのツール実行にも対応しています。コード生成や数学計算にも強く、まさに「究極の汎用ローカルモデル」を目指した一品です。自前の AI をフルコントロールしたいというニーズに応えるモデルとして、Dolphin 3.0 は有力な選択肢でしょう。

⑤ Mistral 7B v0.3(小型でも機能充実な新鋭モデル)

Mistral 7Bは、フランスのスタートアップである Mistral AI によって公開された新進気鋭の小型モデルです。パラメータ数は 70 億規模と軽量ながら、その性能は驚異的でLlama2 の 13B モデル(130 億)を上回るベンチマークスコアを叩き出しています。オープンソース(Apache 2.0)で提供されており、商用利用含めて自由度高く使える点も魅力です。

最新バージョンの v0.3 では、なんと関数ツール呼び出し(Function Calling)機能が公式にサポートされました。例えば天気予報 API をツールとして登録しておけば、ユーザーから「今日の大阪の天気は?」と尋ねられた際に、Mistral が自動的にその API を呼び出して回答するといったことが可能になります。小型モデルでありながらエージェントに必要な外部連携の能力を備えているのは大きなポイントです。

さらにコンテキスト長も 32k トークンと十分長く、長文の指示や会話履歴にも対応可能。軽量ゆえに動作も高速で、省メモリで済むため、手軽に自前サーバーやラップトップで試せる利点があります。「小さくても賢い」を体現した Mistral 7B は、エ dge 環境やリソース限られたシステムでAI エージェントを走らせたい場合に最適なモデルと言えるでしょう。


4. 5モデルの比較まとめ

上で紹介した 5 つのオープンソース LLM について、主要な特徴を表にまとめます。それぞれのモデル規模や強み、エージェント機能面の特色を比較してみましょう。

モデル名モデル規模主な強み・性能エージェント機能の特徴
GPT-OSS20B / 120B(Mixture-of-Experts)コンテキスト長: 128k トークン強力な推論力・汎用性能 OpenAI 製で信頼性高関数呼び出し・Web 閲覧などツール統合 ◎ 思考過程の可視化(CoT 表示)対応
Qwen37B〜235B(Dense + MoE ハイブリッド)コンテキスト長: 40k〜256k多言語対応・高い論理 思考能力大規模 MoE で性能拡張ツール使用に高い適性(思考モード搭載) コード・画像モデル派生あり
GLM-4.6※非公開(大型モデル相当)コンテキスト長: 200k トークン以上超長文入力で文脈保持 ◎ コード生成や推論精度が向上エージェント統合を意識した調整 検索やツールで回答精緻化が可能
Dolphin 3.08B(Llama3.1 ベース)コンテキスト長: 128k トークン軽量で動作が速い ローカル利用に特化し拡張自在関数ツール呼び出しに対応 システムプロンプト等をユーザー管理可
Mistral 7B7B(ファミリーで Instruct/Chat 調整済)コンテキスト長: 32k トークン小型だが Llama2 13B 超の実力 省メモリ・高速実行関数呼び出しサポート ◎ 手軽にエージェント組込み可能

※コンテキスト長…モデルが一度に処理できる入力テキストの長さ(トークン数)。

各モデルともオープンソースで提供されており、商用利用も含め自由に活用できます。自社システムへの組み込みや、追加学習によるカスタムモデル作成も可能です。


🔚 まとめ

  • AI エージェントは、自律的に思考しツール等を駆使してタスクを実行する次世代の AI 活用形態です。クラウドに頼らずローカル環境でエージェントを動かす利点として、プライバシー確保やコスト削減、カスタマイズ性の高さが挙げられます。
  • オープンソースの大規模言語モデル(LLM)が続々と公開され、ローカルで使える高性能モデルの選択肢が広がっています。本記事では特にエージェント実行に強みを持つ 5 つのモデル(GPT-OSS, Qwen3, GLM-4.6, Dolphin 3.0, Mistral 7B)を紹介しました。それぞれ規模や特徴は異なりますが、いずれもツール連携や高度な推論能力でエージェント用途に応える実力派です。
  • モデル選定のポイントとして、求める能力と動作環境に合ったものを選ぶことが重要です。例えば「できるだけ軽量にしたいなら Mistral」「多少重くても最高性能を求めるなら GPT-OSS や Qwen」「長い文章や複雑な資料を扱うなら GLM-4.6」「手元で自由に調整したいなら Dolphin」といった形で、用途に応じて最適なモデルが変わります。

OpenBridge 株式会社では、上記のようなローカル LLM を活用した AI エージェントの導入支援を行っています。モデル選定からシステムへの組み込み、追加学習によるチューニングまで包括的にサポートいたしますので、エージェント AI の活用をご検討中の方はぜひお気軽にご相談ください。