
AIエージェントのセキュリティ完全ガイド|インターネット接続型 vs ローカルLLMを比較
目次
1. なぜ今「AIエージェントのセキュリティ」なの?
AI エージェントは、検索・メール送信・ファイル操作・コード実行・外部 API 連携まで自動でこなす“仕事を進める AI”です。便利な反面、攻撃者にとっても魅力的なターゲットになっています。
特に近年は、エージェント特有の脆弱性(プロンプトインジェクションやツール悪用など)が数多く報告され、従来のセキュリティ対策だけでは不十分になってきています。
2. AIエージェントで起きがちなリスク
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プロンプトインジェクション
文書や Web ページに仕込まれた“隠し指示”により、エージェントが本来のルールを無視して外部サイトへアクセスしたり、機密情報を送信してしまうリスクがあります。 -
ツール/プラグイン悪用
エージェントは外部ツールを呼び出せるため、もし権限管理が甘いと、コード実行・DB 操作・ファイル書込などが攻撃の踏み台にされる可能性があります。 -
データ漏洩・プライバシー侵害
会話やプロンプトに PII(個人情報)や営業秘密が含まれると、それが外部に送信されたり学習データに混ざるリスクがあります。 -
モデル抽出・設定漏えい
LLM サーバが公開設定のままだと、重みやトークン、内部の設定情報が抜かれてしまう事例がすでに確認されています。 -
エージェント間連携の連鎖事故
複数エージェントの“協調”は便利ですが、なりすましや DoS(サービス妨害)に利用される可能性もあります。
3. ネット接続エージェント vs ローカルLLMエージェント
比較観点 | インターネット接続エージェント | ローカル LLM エージェント |
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代表的な脅威 | Web 由来のプロンプトインジェクション、外部 API の悪用 | 内部データの誤露出、サーバ公開による不正アクセス |
事故の伝播性 | 高い(リンク 1 つで拡散、外部 API 経由で連鎖) | 中(社内に留まりやすいが、設定ミスで外部化) |
データ主権・所在 | 外部に出やすい | 社内完結しやすい |
監査・可視化 | 外部 I/O が多く把握が難しい | 社内ネットワークで可視化しやすい |
ゼロデイ影響 | 受けやすい(SaaS の更新に依存) | 限定的(更新を自社で管理できる) |
導入容易性 | クラウドや API で導入が早い | 構築に手間はかかるが制御性が高い |
主な対策のキモ | 入出力の検疫、ツール権限の最小化、外部依存の監査 | 認証・認可、NW 隔離、秘密情報の管理 |
実害例 | 悪性ページによる情報送信、勝手な予約・発注 | 誤公開 LLM サーバからのモデル抽出、社内データ無制限参照 |
4. インターネット接続型で本当に注意すべきポイント
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入力の“検疫”を必ず通す
Web や外部ファイルは隠し指示が含まれやすいため、正規化やフィルタリングが必要です。 -
ツール実行は“最小権限+人の確認”
書き込み系の操作は必ず人間の承認を挟むことが重要です。 -
外部 API・SaaS の見える化
どの API を叩いたのか、何を送信したのかをすべてログに残し、異常な挙動は自動遮断できるようにしましょう。 -
エージェント間通信の本人確認
署名や認証を導入し、なりすましや大量送信による攻撃を防ぐことが必要です。
5. ローカルLLM構成の落とし穴と守り方
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“公開されていないつもり”が一番危険
LLM サーバは VPN や認証で守り、外部に不用意に公開しないこと。 -
データベースの権限管理
RAG で検索される情報は、ユーザーごとにアクセス可能範囲をしっかり制御しましょう。 -
秘密情報(API キー等)の保護
トークンや鍵はシークレットマネージャで管理し、ログや会話に残さない設計が大切です。 -
依存ライブラリの管理
サプライチェーン攻撃を防ぐため、利用するライブラリやモデルは署名済みのものを利用し、更新を管理下で行いましょう。
6. 実務に効くユースケースと安全設計のコツ
✅ 社内 FAQ/RAG 検索
- ローカル LLM なら情報漏洩リスクを抑えやすい。
- 対策:機密タグで検索結果を制御し、根拠提示を必須に。
✅ Web 巡回・レポート作成
- ネット接続エージェントの得意分野。
- 対策:URL 許可リストや HTML サニタイズで不正サイトへのアクセスを防止。
✅ バックオフィス自動化(在庫・請求・メール)
- ローカル LLM が適している。
- 対策:最小権限の実装、人による確認を必須にする。
✅ 複数エージェントの協調タスク
- ハイブリッド構成で使い分けるのが現実的。
- 対策:相互認証や異常検知を導入し、連鎖事故を防ぐ。
7. 導入チェックリスト
- 入出力検疫を導入してプロンプトインジェクションを防ぐ
- ツール権限は最小限にし、書込は承認制にする
- API キーやトークンは安全な秘密管理システムで保管する
- LLM サーバは公開しない、VPN や認証で守る
- 全ての操作ログを残し、監査可能にする
- エージェント間通信は署名や認証を必須にする
- 利用者への教育を行い、安全な使い方を周知する
8. まとめ
AI エージェントは便利で強力な存在ですが、その力が大きい分だけセキュリティリスクも高まります。
インターネットに接続されたエージェントは、外部からの攻撃やプロンプトインジェクションに狙われやすく、データ漏洩や外部 API の悪用といったリスクが現実的に発生します。
一方でローカル LLM を活用したエージェントは、データを社内に閉じ込めやすいという強みがあるものの、設定ミスによるサーバ公開や権限管理の不備から事故につながる可能性もあります。
つまり「どちらが安全か」ではなく、用途に応じてリスクを理解し、適切な対策を組み合わせることが重要です。
- ネット接続型なら「入力の検疫」「ツールの最小権限」「外部依存の監査」
- ローカル型なら「認証・認可」「データベースのアクセス制御」「秘密情報の厳格管理」
このような基本を押さえることで、AI エージェントを安心して業務に活かすことができます。
今後はさらに AI が自律的に動く時代に入ります。セキュリティを後回しにせず、設計段階から「安全」を組み込むことが、企業にとっても個人にとっても最適な選択になるでしょう。
OpenBridge では、AI エージェントの導入からセキュリティ設計まで、実務に即した支援を行っています。気になる方はぜひご相談ください。