LLMエージェントのデザインパターン完全ガイド

4つのデザインパターンを徹底解説

LLM(大規模言語モデル)エージェントは、単なる「質問に答えるAI」から、自律的に目標を設定し、ツールを使い、他者と協調する知的存在へと進化しています。
この記事では、エンジニアがLLMエージェントを設計・実装する際に押さえるべき4つのデザインパターンを詳しく解説し、さらに近年注目される自律型とワークフロー型という2つの設計思想を比較します。


1. Reflection(リフレクション)パターン

自分の出力を振り返りながら成長するAI

Reflectionパターンとは、LLMが自らの出力を再評価し、改善する仕組みを取り入れる設計です。
人間の「内省」に近く、モデルが一度出した回答を自ら見直し、「本当に最適解か?」を検討します。

例えば、以下のような流れが一般的です:

1.ユーザーの質問に初回回答を生成
2.自らの回答を分析し、誤りや改善点を指摘
3.改善版の回答を生成
4.最終的な出力として採用

このプロセスはまるで自己添削のように働きます。
Reflectionパターンは、特に推論精度の向上や、長文の整合性確保に強力であり、ChatGPTの高精度モードやClaudeのChain-of-Thought推論でも類似のアプローチが見られます。

開発者視点では、「Reflection Loop」を制御する設計が鍵です。
たとえば、リフレクション回数を制限したり、自己評価スコアを導入して効率化を図ることが一般的です。


2. Tool Use(ツール利用)パターン

LLMが「道具」を使いこなす設計思想

LLM単体では、外部情報へのアクセスやファイル操作ができません。
そこで登場するのがTool Useパターンです。
このパターンでは、LLMがAPI・データベース・Pythonスクリプトなどの外部ツールを「コマンドとして呼び出す」ことで、知識や操作範囲を拡張します。

たとえば次のような構成が典型的です:

  • ツール呼び出しモジュール@toolfunction_callingなどの仕組みでLLMから関数を呼ぶ
  • 実行エンジン:PythonやTypeScriptなどでツールを実行し結果を返す
  • LLM応答統合:ツール結果を再入力して最終出力を生成

この仕組みはLangChain、LlamaIndex、OpenDevinなどのフレームワークで中核をなす設計であり、「AIがコードを実行する」時代の基盤とも言えます。
エンジニアにとっては、「ツールの定義を明確化し、権限を最小化する」ことがセキュリティ上の重要ポイントです。


3. Planning(プランニング)パターン

AIが「段取り」を理解し、計画的に動く

Planningパターンは、タスクを複数のステップに分解し、LLM自身が実行計画(plan)を立てる設計です。
これは単純な指示応答ではなく、「どの順番で何をすべきか」をAIが考える点に特徴があります。

代表例は以下のようなプロセスです:

1.ゴールを理解する
2.必要なサブタスクを洗い出す
3.タスクの順序を決定
4.各ステップを順に実行
5.結果を統合し最終回答を生成

この仕組みは「Chain-of-Thought(思考の連鎖)」や「Tree-of-Thought(探索型推論)」の応用でもあり、
特に長期タスク・マルチステップ推論・複雑な意思決定に強みを発揮します。

たとえば、要件定義→設計→コード生成→テスト→修正といった開発工程をAIが自律的に回す際には、このPlanningパターンが中核となります。


4. Multi-Agent Collaboration(マルチエージェント協調)パターン

役割分担でチームのように動くAI群

最後に紹介するのがMulti-Agent Collaborationパターンです。
これは、複数のLLMエージェントが異なる役割を持ち、対話・交渉・合議によって最適解を導く仕組みです。

例えば、次のような構成が考えられます:

  • Plannerエージェント:全体方針を決める
  • Coderエージェント:コード生成を担当
  • Reviewerエージェント:品質検証を行う
  • Managerエージェント:進行管理と最終判断

このような「AIチーム」は、まるでプロジェクト開発のように協力し合い、
個々のエージェントが専門性を発揮することで、全体の知的性能をブーストします。
近年では「AutoGPT」「CrewAI」「ChatDev」などがこのパターンを採用し、
プロジェクト全体をAI同士の対話で遂行する試みが進んでいます。


コラム:自律型 vs ワークフロー型 ― どちらのAI設計を選ぶべきか?

LLMエージェントを設計する際、しばしば議論になるのが「自律型(Autonomous)」と「ワークフロー型(Workflow-based)」の違いです。

自律型(Autonomous Agent)

自律型エージェントは、最初に与えられた目標に基づき、自ら計画・実行・修正を繰り返すAIです。
AutoGPTやBabyAGIのように、「ゴールを入力したら、AIが勝手に動く」というスタイルが代表例です。

メリットデメリット
柔軟で予測不能なタスクにも対応可能暴走リスクがあり、意図しない行動を取る場合も
人間の介入が少なく済む実運用では安全性・再現性の確保が難しい

ワークフロー型(Workflow-based Agent)

一方、ワークフロー型は、タスクの流れを明示的に定義した上で、LLMが部分的に関与する仕組みです。
たとえば「問い合わせ受付 → 分類 → 要約 → 回答生成 → 確認」といった流れを固定し、
それぞれのステップにLLMを埋め込む構成です。

メリットデメリット
再現性が高く、業務システムに組み込みやすい柔軟性に欠け、未知の状況には弱い
責任範囲が明確で安全性が高い

どちらを選ぶべきか?

実務では、多くの開発チームが「ハイブリッド構成」を採用しています。
基本はワークフロー型で制御しつつ、一部のサブタスクに自律的なエージェントを組み込むことで、
安全性と創造性のバランスを取るのです。


まとめ:LLMエージェント設計の未来

LLMエージェントの設計は、もはや単なる「プロンプト設計」ではなく、
思考・行動・協調のデザインそのものへと進化しています。

  • Reflection → 自己改善の仕組み
  • Tool Use → 外部世界との接続
  • Planning → 戦略的推論
  • Multi-Agent Collaboration → 知的な分業

そして、「自律型」と「ワークフロー型」をどう組み合わせるかが、
次世代AIシステムの本質的なテーマになるでしょう。

エンジニアとしての次の一歩は、「AIを使う」から「AIを設計する」へ。
そのための出発点として、本記事の4パターンをぜひ押さえておきましょう。