目次


  1. ローカルLLMとは?セキュリティ・運用性・コストで注目される理由

近年、ChatGPT に代表される生成 AI をビジネスに活用する企業が増える中、クラウドではなく自社内で動かせるローカル LLMが改めて注目を集めています。ローカル LLM とは、インターネット経由の外部 API を使わずに、自社サーバーや手元の PC 上で動作する大規模言語モデルのことです。
クラウド型と比べて 機密情報の漏洩リスクが低く、社内ネットワーク内で安心して AI を利用できる点が企業から評価されています。また、クラウドサービスの従量課金が不要になるため長期的なコスト削減にもつながります。一度ハードウェアを整備してしまえば、追加料金を気にせず何度でも AI に問い合わせが可能です。

さらにローカル LLM は運用面での柔軟性も魅力です。インターネット未接続の閉域環境やオフライン環境でも AI を稼働でき、災害時や通信障害時のバックアップとしても役立ちます。加えて、自社データでモデルを微調整したり(ファインチューニング)、社内のデータベースと連携するなどカスタマイズ性が高いのも特徴です。こうしたセキュリティ・コスト・運用性の利点から、「社内に AI を持ちたい」という中小企業を中心にローカル LLM 導入の動きが広がっています。

では、具体的に企業がすぐ使える最新のローカル LLM にはどのような選択肢があるでしょうか。本稿では2025 年時点で利用できる代表的な 5 つのオープンソース LLMを厳選し、それぞれの特徴をセキュリティ/運用性/コストの観点で解説します。中小企業が手持ちの PC(価格帯 30 万〜50 万円程度)で動かせるモデルを中心に取り上げますので、自社の AI 活用検討の参考にしてください。


2. OpenAI GPT-OSS:OpenAI発のオープンモデルで安心運用

gpt-oss

OpenAI GPT-OSS(ジーピーティーオーエスエス)は、あの OpenAI 社が 2025 年 8 月に公開した初のオープンソース LLM です。長らく API 経由でしか使えなかった GPT 系モデルを、誰でも自社サーバーに導入できるようになったことで大きな話題を呼びました。ライセンスは Apache 2.0 で公開されており商用利用も自由です。つまり利用料 0 円で、社内システムに組み込んで社外にデータを出さずに GPT を活用できるようになったのです。

GPT-OSS にはパラメータ規模の異なるモデルが用意されており、例えば約 20B(200 億)パラメータの軽量版と 120B(1200 億)パラメータ級の高性能版が公開されています。中小企業が手持ちの GPU 搭載 PC で試すなら 20B クラスのモデルでも十分強力で、英語ベースの GPT-3.5 並みの高度な回答をローカル環境で得ることができます。OpenAI ブランドならではの自然な言語応答の品質と、コミュニティ主導の改善による安定性が両立している点も魅力です。

運用面でも、OpenAI が提供してきたツール類やエコシステムとの親和性が高く設計されています。たとえば OpenAI 製の API やプラットフォームとの連携を見据えたインターフェースが備わっており、既存の社内システムに統合しやすい工夫がされています。「まずは信頼性重視で社内向け AI を導入したい」企業には最適な選択肢と言えるでしょう。自社データを使ったナレッジ検索システムや、社内問い合わせチャットボットの中核として、安心して活用できるモデルです。


3. ELYZA-japanese-Llama-2-7b:商用利用可能な日本語特化モデル

ELYZA-japanese-Llama-2-7b(エライザ・ジャパニーズ・Llama2-7b)は、東京大学松尾研発のスタートアップである ELYZA 社が 2023 年 8 月に公開した 日本語特化の大規模言語モデル です。ベースとなっているのは Meta 社の Llama2(パラメータ数 7B = 70 億)で、日本語の対話データを用いて微調整(ファインチューニング)されています。その結果、同程度の規模のモデルとしてはGPT-3.5 に匹敵するとされる性能を実現しており、公開当初から国内企業でも注目を集めました。オープンソースでモデルが公開されており、改変や再配布も可能。ライセンス上も商用利用が明確に許諾されているため、企業でも安心して使える点が魅力です。

ELYZA モデル最大の特徴は、日本語での高度な対話や文章生成に対応できるよう人間のフィードバックを取り入れた学習を行っていることです。この RLHF によりユーザー意図を正確に汲み取った丁寧な回答や、文脈に沿った自然な日本語表現が得意となっています。例えば、少々意地悪な聞き方の質問でも誤解せず適切に答えたり、敬語・口語の使い分けにも柔軟に対応できます。「日本語に強いモデル」として評価が高く、日本語での社内チャットボットや文書要約といった業務にうってつけです。

7B という比較的小型のモデルで最適化も進んでいるため、一般的なゲーミング PC 級のマシンでも動作可能な実用性があります。クラウドに機密データを送らずに済むセキュアさと、ソフトウェア的な扱いやすさを兼ね備えたモデルとして、まず試してみる価値の高いローカル LLM です。


4. RakutenAI-7B-Instruct:大手企業が公開した高精度モデル

RakutenAI-7B-Instruct(楽天 AI-7B-Instruct)は、楽天グループが 2024 年 3 月に公開した 国産のオープンソース LLM です。ベースには最新の高性能オープンモデルである Mistral 7B(70 億パラメータ)が採用され、楽天が保有する日本語データで指示応答形式に微調整されています。ライセンスは Apache 2.0 で公開されており、商用利用も可能なモデルとしてリリース当初から話題を集めました。

このモデルの強みは、日本語の理解力と表現力のバランスが非常に良いことです。社内開発ならではの品質管理が行き届いており、生成される回答の日本語は分かりやすく丁寧です。専門知識が必要な質問にも比較的的確に答えられる傾向があり、実際の評価テストでも日本語の要約や質疑応答で高い正確性を示したと報告されています。敬語の使い方も自然で、日本語での対話システムやカスタマーサポートへの組み込みに適しています。

また、大手企業が主体となって開発・公開したモデルという安心感も見逃せません。今後のアップデートやコミュニティでの継続支援も期待できるでしょう。オープンソースで誰でも利用可能なため、自社サービスに組み込んで独自にカスタマイズすることもできます。「高精度な日本語対応 AI をすぐ試したい」という場合に有力な選択肢であり、社内 FAQ ボットから商品レコメンドシステムまで幅広い業務で活用が見込めるモデルです。


5. Mistral 7B:軽量高速な実用モデル

Mistral 7B(ミストラル 7B)は、フランス発のスタートアップ Mistral AI 社が 2023 年に公開した 次世代オープンソース LLM です。パラメータ数 7B(70 億)の比較的小型モデルながら、高度な最適化により性能と効率を両立している点が特徴です。実際、同規模の他モデル(Llama2 7B など)に比べて推論速度が速く、必要メモリも抑えられているため、限られた計算資源でも動かしやすい設計になっています。ライセンスは Apache 2.0 で、改変・商用利用含め自由に扱えるため企業導入にも適しています。

Mistral 7B は公開直後から多くのコミュニティによる派生モデルや微調整モデルが生み出されており、先述の楽天 AI モデルもこの Mistral をベースにしています。「実務で使える軽量モデル」が欲しい企業にとって最適な選択肢の一つで、メール文の自動生成やチャットボットへの組み込み、社内情報を使った検索応答システム(RAG)などで幅広く活躍できます。
また、多くの企業や開発者が既にこのモデルを採用しており、導入事例やノウハウが蓄積されつつある点も安心材料です。コミュニティ製の使いやすい GUI ツール(たとえば LM Studio や Ollama 等)でも公式に対応が進んでおり、エンジニアでなくとも比較的簡単に扱える実用性の高さが光るモデルです。


6. DeepSeek-14B:国内企業によるトップクラス日本語モデル

DeepSeek-14B(ディープシーク 14B)は、サイバーエージェント社が 2025 年に公開した 日本語特化型の大規模言語モデル です。正式名称は「DeepSeek-R1-Distill-Qwen-14B-Japanese」で、その名の通り中国・Alibaba 社の高性能モデル Qwen-14B をベースに独自手法で蒸留・微調整したものとなっています。パラメータ規模は 14B(140 億)で、本記事で紹介する中では最大級です。ライセンスは MIT とオープンで、商用利用も含め自由に扱えるよう公開されています。

DeepSeek-14B の最大の魅力は、その日本語出力品質の非常な高さにあります。社内外での評価によれば、質問に対して要点を的確に押さえた端的でわかりやすい回答を生成できるとのことです。敬語表現や専門用語の使い方も適切で、回答文の一文一文が洗練されているとの評価もあります。実際、他の 7B クラスのモデルと比較したテストでも、日本語の要約や QA の正確さで群を抜く結果を残しました。まさに日本語特化モデルでは現状トップクラスの一つと言える性能です。

そのぶんモデルサイズが大きく、7B モデルに比べると動作に必要な GPU メモリや処理時間の負荷は高くなります。ただ、最新の高性能 GPU 環境(例えば VRAM 24GB クラスの GPU)であれば、量子化モデルなどの工夫により十分実用的なスピードで動かすことが可能です。精度重視のビジネス用途、例えば 長文記事の自動要約や専門領域のレポート生成、社内ナレッジの高度な分析 などでは、このモデルの真価が発揮されるでしょう。クラウドに出せない機密情報を扱いつつ高精度な AI 処理を行いたい企業にとって、頼もしい選択肢となります。


7. 企業向けローカルLLM 5モデル比較表(2025最新版)

モデル名特徴・用途セキュリティ運用性(扱いやすさ)導入コスト必要スペック(目安)導入しやすさ(総合)
GPT-OSS(OpenAI 公式 OSS)OpenAI が公開した唯一の OSS GPT 系。高い汎用性と品質。英語中心。⭐⭐⭐⭐⭐(ローカル実行)⭐⭐⭐⭐(ツール豊富で扱いやすい)無料(OSS)GPU 12〜24GB 推奨⭐⭐⭐⭐(安定性と信頼性が高い)
ELYZA japanese Llama2-7B日本語に特化。社内 FAQ や文書要約に強い。軽量。⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐(7B で動作軽い)無料GPU 8〜12GB⭐⭐⭐⭐⭐(初心者に最も導入しやすい)
RakutenAI-7B-Instruct日本語と英語のバランスが良い。楽天製の品質。⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐(調整しやすい)無料GPU 8〜12GB⭐⭐⭐⭐⭐(業務向けに安定)
Mistral 7B世界的に利用される軽量高速モデル。RAG 用途に強い。⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐(運用ツールが豊富)無料GPU 8〜12GB⭐⭐⭐⭐⭐(幅広い用途で使いやすい)
DeepSeek-14B(サイバーエージェント社)高精度な日本語生成。長文処理に強い。⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐(14B なので重め)無料GPU 20〜24GB 以上⭐⭐⭐(高精度だがマシン要件が高め)

8. 実際の活用シーンと導入アドバイス

✅ 社内 FAQ・ナレッジ検索

社内の問い合わせ対応や情報共有に、ローカル LLM を用いたナレッジ検索システムが活躍しています。社内ドキュメントやデータベースをモデルに連携させておくことで、従業員は自然な質問文で検索し、的確な回答や関連情報を即座に得ることができます。クラウドを介さないため機密資料を安心して扱え、社内問い合わせ対応の効率化や新人教育のサポートにもつながります。

✅ カスタマーサポート AI チャットボット

自社サービスの問い合わせ対応にローカル LLM 搭載のチャットボットを導入するケースも増えています。顧客データやマニュアルを学習させたモデルを使えば、ユーザーからの質問に 24 時間自動応答可能です。クラウド未使用のため個人情報や問い合わせ内容が外部に漏れず、金融・医療など厳格なセキュリティ基準の業界でも導入しやすい利点があります。回答精度もカスタマイズ次第で向上でき、顧客満足度アップに寄与します。

✅ 議事録要約・社内文書の自動生成

会議の議事録や社内報告書の要約作成にもローカル LLM が利用されています。録音データの文字起こし結果や長文の報告書をモデルに与えると、要点を抽出したサマリーを素早く生成可能です。必要に応じて日本語 ⇔ 英語翻訳も同時に行えるため、多国籍な職場での情報共有もスムーズになります。オフライン環境で動作するため外部サービスに機密情報をアップロードせずに済み、内部資料の要約・翻訳を安全に自動化できる点がメリットです。

✅ 導入時のポイント

  • 小規模モデルから段階的に試す: まずは 7B 前後の軽量モデルで PoC(概念実証)を行い、自社データでの精度や応答速度を確認しましょう。小さく始めて問題なければ、必要に応じて 14B 以上の高性能モデルへスケールアップするのがおすすめです。
  • 業務ニーズに合ったモデル選定: モデルごとに得意分野や必要リソースが異なります。例えば日本語の微妙なニュアンス重視なら ELYZA や DeepSeek、英語情報の活用が多いなら GPT-OSS や Mistral など、用途に応じて最適なモデルを見極めましょう。
  • 運用体制の整備: ローカル LLM を安定稼働させるには、GPU を含むハードウェア資源の確保や、モデルアップデート時の再調整など継続的な運用が欠かせません。定期的なメンテナンス計画を立て、必要に応じて社内の IT 担当者を育成しておくと安心です。
  • 専門パートナーの活用: 初めてローカル LLM を導入する場合、設定や統合に技術的ハードルがあるかもしれません。困ったときは AI 導入支援の専門企業に相談するのも一つの方法です。自社だけでは解決が難しい課題も、経験豊富なパートナーの力を借りることでスムーズに乗り越えられます。

🔚 まとめ

  • 本記事では、企業内で安心して使えるローカル LLM の代表例 5 つとして「GPT-OSS」「ELYZA Llama2-7b」「RakutenAI-7B」「Mistral 7B」「DeepSeek-14B」を紹介しました。いずれもオープンソースで公開されたモデルで、ライセンス上も社内利用が認められており、自社サーバーで安全に運用できます。
  • 小型モデル 7B 級は動作が軽快で扱いやすく、チャットボットやドキュメント要約など日常業務で即戦力になります。一方、大型モデル 14B 級以上は高精度な応答が期待でき、専門的な分析や長文生成など高度な業務にも対応可能です。ただし必要な GPU 資源も増えるため、自社の環境に合わせてバランスよく選定しましょう。
  • モデルごとに強みや得意分野が異なるため、実際に試行錯誤しながら自社にフィットするモデルを見極めることが大切です。日本語特化の丁寧な応答が欲しいのか、多言語情報を活用したいのかなど目的に応じて最適解は変わります。幸い多くのモデルが無料で試せるので、段階的にテストを重ねて社内導入の確信を深めていきましょう。
  • ローカル LLM のオープンソースコミュニティは日々進化しており、新しい高性能モデルや便利なツールが次々と登場しています。最新動向を追いつつ、自社の AI 活用戦略にアップデートを取り入れていくことで、セキュアかつコスト効果の高い AI 活用を実現できるでしょう。

OpenBridge 株式会社では、ローカル LLM のモデル選定から導入支援、社内システムへの組み込み・カスタマイズまで包括的にサポートしています。自社に最適な AI を導入したいとお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。